クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
「ヴァレーゼ王国第三王女エルドラ姫だな」

男の声は低く掠れており聞き取り辛い。それでも親しみなど一切無い冷ややかなものであるのは伝わって来た。

エルドラ王女の身体がびくりと震えリアナに抱き着く腕の力が強くなる。怯えていることは明らかだったが、それでも王女の矜持が許さないのか、彼女は強い口調のまま答えた。

「お前たちこそ何者なの? 答えなさい!」

騎士は馬鹿にしたように笑いながらも、エルドラ王女の質問に答える。

「我々はフォルセア軍属のものですよ。エルドラ王女の結婚を妨害する為にやってきました」

思いがけない返事だった。エルドラ王女は虚をつかれたように勢いを失う。

「フォルセアがどうして私の結婚に関わるの?」

リアナは黙っていたが同じ気持ちだった。

エルドラ王女はフォルセアとは関わりのない遠国に嫁ぐ。大陸の中央に位置する国土の多くが山の小さな国だ。平和主義で決して争いをしないと聞いている。

考えてもフォルセアが妨害するような理由があるとは思えなかった。

「不思議ですか? 答えは我々の主が話しますので一緒に来て頂きますよ」

「な、何を言っているの? 私をどこに連れて行くつもり?」

「主のところと言ったはずですが」

騎士は嘲るように言う。この騎士はどうやらエルドラ王女を下に見ている様子だった。

「ふざけないで!」

騎士は叫ぶ王女を意に介さず、リアナに視線を向けて来た。

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