ロマンスの王子様
落ち着け、落ち着くんだ…。

私の心臓、今は落ち着くんだ…。

と言うか、“好き”と言われたくらいで舞いあがってんじゃないよ!

何だかんだで私もまだ乙女の部分があるんだなと、この期に及んでそんなのん気なことを思った。

「明穂?」

奥原さんがまた私の名前を呼んだ。

ああ、もうこんな時に名前を呼ぶんじゃないよ!

いつもは私のことを“お前”って呼んでるくせに、こんな時に“明穂”って私のことを名前で呼ぶんじゃないよ!

策略にしろ何にしろ、ずるいにも程があるわ!

私は自分の気持ちを落ち着かせるために深呼吸をすると、
「――好きでもないです…」
と、自分が思っていることを正直に答えた。

「奥原さんのことは好きでもなければ嫌いでもない――今の私の気持ちは、そんな感じです…」

そう答えたのと同時に、奥原さんの手が私から離れた。
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