Match maker

【二人とも、心拍数が50メール走の後と同じレベルになっとるけど、緊張してんのか？】

「お気遣いなく。」抑揚も付けず、そう言った。

【あともう一つ、マッチングした条件がある。】

「近くにいる人…でしょ？」

【あ、それもそうやな。】

「何よ。」

【名前や。】

「名前？」

【自己紹介くらい自分らでせえ。】

「確かに…失礼致しました。田中実雅(たなかさねまさ)です。」

「中田雅実です。」

【な？似てるやろ？なんか、合うんちゃうかなぁーって。】

0が、俺達の名前を漢字で壁面に映し出した。

「ちょっと！もっと真剣に！」

【イケメンもふざけとる】

【誰でもいいなんて、論外や。】

あくまで、検索の為に…だが。

【検索します。】

そう言ったと思うと壁面の名前が消えて変わりに地図が映し出された。

何点か星印がついている。

【この近辺のホテルや。手っ取り早いやろ？】

バンッ！

俺より少し早く彼女が0をタップした。

【洒落の通じへんヤツやな。そんなんやから、まだ成婚せえへ…】

バンッ！

もう一度タップした。

さっきより、強く。

【ブイッシュイーン】

「すいません、つい。」

彼女がそう言った。

「いえ、あなたがそうしてなかったら、私がやっていたと思います。」

「すいません。」

「こちらこそ。」

0を外すと、彼女の手に戻し

ため息をついた。

ゆっくりと顔を上げると

彼女も、ゆっくりと顔を上げた。

目が合う。

「ふっ」

「はっ」

「「あははは！」」

それから、暫く笑い合った。

女性と笑い合うなんて、かつて経験したことがあるだろうか。

彼女はその日“N0”は出さなかった。

俺達を動揺させてくれたお陰で…ボロが出ずに済んだ。

心底、感謝した。SS0に。

漸く回ってきたチャンスを掴ませてくれた。

AIに。

また、次がある。

その事に。