エリート外科医といいなり婚前同居

雅子はすっかり私が礼央さんに恋してると決めつけてしまうけど、自分ではまだ納得できなかった。というより、したくなかった。

だって、礼央さんを好きになったって……結ばれる可能性なんてないでしょう?

彼が恋人のように甘く迫ってくるのは、婚約者のフリを自然にさせるためで、そもそも婚約者のフリというのは家政婦の仕事の延長なのだ。要は、ビジネスパートナー。

なのに……そう考えると、胸が苦しくなるのはなぜなの?

自分でも手に負えないほどこんがらがった感情を持て余し、私はすっかり困惑してしまった。





「おかえり、千波」

「た、ただいま、です……」

マンションへ戻ると、当直明けの礼央さんが先に帰っていた。雅子に〝恋してる〟と言われたせいで妙に意識してしまった私は、態度がぎこちなくなってしまう。

「す、すぐご飯の支度します」

部屋でそそくさと着替えてから、彼と目を合わせないように急いで、安息の地であるキッチンに逃げ込む。

けれど、シンクで手を洗っていたら礼央さんがやってきて、あろうことか背後から抱きついてきた。ウエストに腕を絡められ、鼓動が大きく跳ねる。

い、今、そういうのやめてください!
ますます自分の気持ちがわからなくなる……!



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