エリート外科医といいなり婚前同居
「大変だったんですね。……でも、どうしてその患者さんに思い入れが?」
背後の彼に問うと、先ほどまで弱々しかった声に力が宿る。
「その患者さん、小さなひとり娘を持つシングルファーザーだったんだ。だから、絶対に死なせちゃいけないと思った。娘さんを、ひとりぼっちにしちゃいけないと思った。……昔、ひとりが寂しくて泣いていた千波のように」
「え……? 私……?」
突然自分の名前が飛び出し、思わず体の向きを変えて彼と向き合う。
「礼央さんは、昔の私をご存じなんですか……?」
家政婦として挨拶をしたあの日が、初対面ではなかったの?
怪訝な顔でじっと彼を見つめていると、礼央さんは私からふっと視線を外して、自嘲気味に言う。
「やっぱり……千波の記憶に、俺の姿はないか」
その瞳が寂しげで、胸がきゅっと痛くなる。
「ごめんなさい……。ですけど、教えてください。私と会ったのは、いつ頃のことですか? きっと礼央さんがイギリスに発つ前だから……かなり子どもの頃……?」」
質問しながら詰め寄った私の唇を、礼央さんが人差し指でちょんと押さえた。
反射的にドキッとして、それ以上言葉を発せなくなってしまう。