エリート外科医といいなり婚前同居

そうか、この人がお見合い相手になる予定だったんだ……。

美乃梨さんが思っていた以上に美しく、それに男性だったら誰しもが守ってあげたいと思うようなか弱い雰囲気を持った女性だったので、複雑な気持ちになりながら頭を下げた。

もしも礼央さんと美乃梨さんが本当にお見合いしていたら、どうなっていたんだろう……。考えても仕方がないのに、不安が胸に渦巻く。

そして、そんな私の不安を煽るかのように、美乃梨さんが私に向けて薄く微笑んで言う。

「千波さん、ちょっとお話いいかな」

「私……ですか?」

ぽかんとして聞き返すと、美乃梨さんはゆっくり頷く。

思わず礼央さんの方を向くと、彼は少し考えるそぶりを見せた後で「待ってるから、行っておいで」と私を送り出した。

一体、初対面の私になんの話があると言うの……?

私たちの接点といえば、礼央さんのことしかない。私みたいな冴えない女が彼の婚約者だと知って、怒っていたらどうしよう……。

怯えながら美乃梨さんの後について歩き、しんと静まり返った玄関ホールまで来ると彼女は足を止めた。

さっきまでいた部屋は暖房が効いていたけれど、ここはドレス一枚ではとても寒い。

私が小さく震えていると、美乃梨さんがさらりと黒髪を揺らして私の方を振り返った。

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