エリート外科医といいなり婚前同居
「あなた、婚約指輪をしていないわよね」
「えっ……?」
どくん、と心臓が大きく揺れた。
婚約指輪……。そういえば、そんなものは用意していなかったけど……。
私の正体が疑われているのだろうかと警戒しつつ、なんとかうまい言い訳を探す。
「オーダーメイドなので、今、作っているところなんです。私たち、知り合ってから婚約に至るまでがとても短かったので……」
ああ、今の言い訳、嘘っぽかったかな……。
そもそも婚約指輪って、婚約したすべてのカップルが嵌めなきゃいけないものってわけじゃないから、〝買ってません〟のひと言でもよかったかもしれない……。
つくづく嘘が苦手らしい私は、言ったそばから自分の嘘を後悔し始める。
美乃梨さんはそんな私の動揺ぶりを見透かしたかのごとく、憐れむような声音で言う。
「父に告げ口したりしないから、そんなに慌てなくていいわ。でも、その様子じゃやっぱりあなたたち……」
そこで言葉を切った彼女の落ち着きぶりに、確信する。
この人……気づいてる。私と礼央さんが、〝偽物〟だってことに。
でも、どうして? 言葉を交わしたのはついさっき、それに、ほんの少しだけなのに……。