エリート外科医といいなり婚前同居
「婚約者っていうのは、嘘なんでしょう?」
あっさり図星をつかれ、私はぎゅっと唇を噛んでうつむいた。
今夜は礼央さんのために嘘をつき通す約束だった。それが私の仕事だったのに。
こんな形でばれてしまうなんて、最悪だ……。
認めるしかないとわかっていても、言葉が喉に詰まって出てこない。
いつまでも黙り込んだままの私に美乃梨さんが一歩近づき、苦笑しながら顔を覗き込んでくる。
「あのね、別に私は怒っているわけじゃないのよ? 私は、ある人のために事実を確認したかっただけ」
その言葉に私はようやく顔を上げ、美乃梨さんと視線を合わせる。彼女の瞳は冷静で、怒っていないというのは本当みたいだ。でも、ある人って?
「誰なんですか? その〝ある人〟って……」
「私の主治医の先生。彼女、暁先生と同じ病院に勤めていて、同僚である彼のことずっと前から好きなんですって。だから、私もお見合いはもともと断るつもりでいたの」
――礼央さんのことを好きな人が、自分以外にもいる。
彼がモテるだろうというのはわかっていたはずなのに、そういう存在がいるかもしれないと今まで一度も真剣に考えたことがなかった。
一緒に住んでるからって、浮かれていたんだ私……。