エリート外科医といいなり婚前同居
「ごめん、なさい……」
震える声でなんとかそれだけ口から押し出すと、美乃梨さんは仕方なさそうにため息をついて、こう言った。
「私に謝ることじゃないわ。でも、千波さんもこんなことをしているヒマがあるなら、もっと自分の幸せについて考えた方がいいわよ?」
すれ違いざまにポンと私の肩を叩き、美乃梨さんは会場へ戻って行った。
誰もいなくなった玄関ホールで、冷え切った空気の中にぽつりと呟く。
「私の、幸せは……礼央さんのそばにいることです……」
だからって、たとえいいなりの家政婦ロボットでもそばにいられればいいなんて、おかしい……?
誰にともなく胸の内で問いかけながら、私は静かな玄関ホールでひとり、途方に暮れた。
*
しばらくして会場に戻ると、礼央さんはダーツマシンの前にいた。
ダーツの矢を手に真剣な眼差しで的を睨んでいて、私が戻ってきたことにも気づいていない。それをいいことに、私は彼の美しい横顔にしばらく見惚れた。
やっぱり、カッコいいな……。美乃梨さんとの会話を一瞬忘れ、ときめきに浸る。
やがてヒュッと礼央さんの手から離れた矢は、意思を持ったようにまっすぐ飛び、見事に的の中心に刺さった。