エリート外科医といいなり婚前同居
「……できた」
私の肩に手をかけたままでそう言った彼と、至近距離で視線が絡む。
すぐにでもキスできそうな距離を意識すると恥ずかしくて、私は甘い雰囲気にのまれないように、慌てて話し出した。
「あの、ごめんなさい礼央さん。こんな素敵なもの頂いたのに、私はなにも用意してなくて……」
「いいよそんなの。今こうして俺の隣にいてくれるだけで十分」
「礼央さん……」
そんな、恋人に向けるみたいな優しい目で私を見ないで。
夢と現実とを混同して、勘違いしてしまう。この夜が終わっても、あなたと甘い関係でいられるんじゃないかって……。
そんな、愛しさと切なさのせめぎ合いに押しつぶされそうになっていると、礼央さんはゆっくり私から離れて優しい微笑みを浮かべた。
「そろそろ外に出てみないか? 園内を少し歩こう。閉園まではまだ時間があるから」
まだ、時間がある……。そうだよね。
家に帰るまでは一応、私はまだ彼の婚約者だ。せっかく与えられた幸せな時間を、自分の勝手な心のモヤモヤで台無しにするのはもったいないよ。