エリート外科医といいなり婚前同居
「聖人さん……! どうしたんですか?」
「悪い。実は今日の約束ダメになったんだ。……この店でランチだと聞いてたから、お前の顔見て謝りたくてな」
聖人さんという名らしい男性は、筋肉質な体つきに整えられた口ひげ、短髪がワイルドな印象のイケメン。ぶっきらぼうな物言いのわりに、すまなそうに下がった目尻に優しさがにじみ出ていた。
雅子のことが好きなんだなぁ……というのが、ふたりの短いやりとりを見ていただけでも伝わってくる。
「お仕事でしょ? 忙しいからわざわざいいのに……」
「忙しいからこそ、ひと目お前の顔見ときたかったんだろ。……雅子、こちらは?」
聖人さんの誠実そうな瞳が不意に私に向けられ、私は恐縮しながら頭を下げた。
「初めまして。雅子と同じ大学に通っています、紺野千波と申します」
「辰巳聖人です。もしかして、きみが雅子のお手製乳酸菌飲料を怖がらずに飲んだという命知らずの強者?」
「あ、はは、たぶんそうです」
私たちが友達になるきっかけ、雅子が話したのかな。
ついさっきまで気まずい空気だったけれど、私の話を恋人である聖人さんにしていたと知って、わだかまりが薄れていく。