エリート外科医といいなり婚前同居
『お医者さんごっこ、しようか』
あの時甘く迫ってきた礼央さんが着けていた聴診器……あれもピンクだったっけ。それにやけに子どもっぽい作りで……。
もしかして、あれが今ここに足りないおもちゃの聴診器? でも、なんで礼央さんが……。
そういえば、彼は時々子どもの頃の私について知っているようなことをほのめかしていた。私たち、やっぱり過去に会ったことが……?
私はおもちゃを見つめて、ちょうどそれで遊んでいた頃の記憶を掘り起こしていく。
あの頃は……そう。いつもひとりでお医者さんごっこをしていた。
本当は誰かに患者さん役をやってほしいと思っていたけど、忙しい父に頼むのは子ども心にも気が引けて、いつもぬいぐるみや人形を相手に『どうしました?』『お注射しましょう』なんて、大人ぶった口調でお医者さんになりきって。
しかしそれ以上のことを思い出そうとすると、なぜか記憶にもやがかかってしまう。
それに、胸がちくちく痛む気がする……。あまり思い出したくない過去なのだろうか。
「千波さん?」
拓斗くんの呼びかけで、ハッと我に返った。真剣に考え込んでいた私の顔を、彼が心配そうにのぞき込んでいる。