エリート外科医といいなり婚前同居
「やっぱりそうだ。この制服覚えてる……」
近所の私立幼稚園に通い始め、少しは表情も明るくなった頃だ。しかし、この頃も写真の数は少ない。仕事と子育てに追われていた父には写真を撮る暇もなかったのだろう。
幼稚園での大きな行事の写真が何ページかにわたって続き、あっという間に卒園時期の写真になる。
しかしその最後に、幼稚園とは関係ない写真が一枚だけあるのが目に留まった。
「この写真……」
写っているのは、父と私と、それから中学生くらいの背の高い男の子。
その男の子が着ている服の袖を、泣き顔の私がぎゅっと掴んでいて……父が、なんとか私をなだめようとしている、そんな写真。
背景はどこかの駅のような……ううん、駅というより、空港?
でもそんなことより、この中学生の顔は――。
「この人……もしかして」
私と同じ想像をしたらしい拓斗くんが、確認を求めるように私の顔を覗く。
「礼央、さん……?」
写真に彼の面影を重ねるのと同時に、今まで固く閉ざされていた記憶の扉が音を立ててゆっくりと開くのを感じた。
そして、ようやく私は思い出す。
彼と私の本当の初対面の日や、彼が海外へ旅立ってしまうまでの、短いながらも幸せな日々。
彼と交わした、大切な約束のことを――。