エリート外科医といいなり婚前同居
「帰ってきたら、およめさんにしてください」
――side礼央
千波がいなくなり急に色褪せたように感じるリビングで、俺はぼんやりパソコンの画面を眺めていた。
【千波六歳 小学校入学式】
【千波十歳 運動会花笠音頭】
【千波十二歳 修学旅行】
【千波十四歳 スキー合宿】
これらはすべて千波の父である紺野医師から送られたメールの件名で、俺はなにげなくそそのうちのひとつ、【千波十四歳 スキー合宿】を選んでクリックする。
《先月千波が学校行事の一環で、会津へスキー合宿に行ってきた。しかしせっかくの旅行なのに勉強道具を持ち込んで、ひたすら部屋にこもっていたらしい。相変わらず仲のいい友達もいないようで心配だ》
添付された画像データを開くと、スキー場で撮ったと思われる写真がパッと画面に現れる。
そこにいる十四歳の千波は、笑顔で肩を寄せ合う五人のクラスメイトから不自然に距離を取り、とても居心地の悪そうな顔をしていた。
俺がそばにいれば、彼女を笑顔にしてやれる自信があるのに……。遠く離れたイギリスの地で、当時は悔しく思ったものだった。
でも、日本に帰るのは、こっちで一人前の医者になってから。千波本人とそう約束したから、すぐに飛んで帰るわけにはいかなかった。