エリート外科医といいなり婚前同居

「約束……なんて。千波はすっかり忘れてたけどな」

メールを閉じて自嘲気味にこぼすと、胸がちくりと痛んだ。ふと視線を向けた床の上には、おもちゃの聴診器が転がっている。

あれを持っていれば、離れていても千波と繋がっていられる気がしていたけど……そう思っていたのは、俺だけだったのだろうか。

『お医者さんごっこ、しようか』

あの言葉が持つ意味にも、千波はまったく気づいていないようだった。

……彼女の記憶の中で、すでに俺という存在は忘れ去られていたのだ。

そのことは一緒に生活している中でなんとなくわかっていたものの、認めたくなかった。

いつかは思い出してくれるんじゃないかって、望みが捨てられなくて。

でも、こうなってしまったらもう、認めざるを得ない。

子ども同士の約束を鵜呑みにしてしつこく彼女を想っていたのは、自分だけだったのだと……。



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