エリート外科医といいなり婚前同居
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紺野内科小児科は、近所でとても評判のいい病院だった。
診断の正確さや適切な投薬などの医療行為はもちろんだが、なにより院長である千波の父、紺野先生の人柄に患者たちはみな好感を持っていたのだ。
幼いころからかかりつけで通っていた俺も例外ではなく、医者を志そうと思ったのも、同じく医者である自分の父親の影響というより、皆に愛されている紺野先生に憧れたからだった。
「俺、先生みたいな医者になりたいです」
「ほー、それはうれしいな。でも、きみはお父さんが確か立派な外科医だったろう。そっちの方が医者の花形だと思うけど」
小学校高学年の頃だったか、俺は予防接種のついでに先生とそんな雑談をしていた。
けれど父親のことに話が及ぶと、待合室で待っている母親に聞こえないよう、俺は声を潜めた。
「外科とか内科とかはどうでもいいんですけど、うちの父、全然笑わないから怖いんです。絶対患者さんにも嫌われてると思う」
今となっては、父がただ照れ屋で笑うのが苦手だったという性格を理解しているし、患者たちにも嫌われているわけではなかったとわかるのだが。
子どもの頃はあまり愛想のないの父親に、若干の恐怖心を抱いていたのだ。