エリート外科医といいなり婚前同居
俺も共働き家庭で育ったから、ひとりで過ごす時間の心細さは知っている。そんな彼女が少しでも笑顔になれたらと思いつつ、学校帰りに病院へ寄る日々が始まった。
「はいどうぞ、ハンバーグ作ったの!」
「ありがとう、美味しい」
「ひゃくまんえんになります」
「えっ。お金取るの!?」
「あたりまえです、レストランなんだから」
千波と遊んでいると、あどけない会話の中に女の子らしいちゃっかりした部分があったりするのが面白くて、思いの外楽しんでいる俺がいた。
しかし、千波から笑顔を引き出すのはなかなか至難の業だった。ままごとをするにしろ積み木をするにしろ、彼女はどうしてかいつも無表情だったのだ。
「俺と遊ぶの、つまらない?」
「……ううん、楽しいよ」
「でも、いつもあまり笑わないね」
軽い気持ちで俺がそんなことを言ったら、みるみうるちに千波の目が赤くなった。
な、なんで泣きそうなんだ……? 俺が泣かせちゃったのか?
慌てながらかける言葉を探していた俺に、千波が言った。
「お兄ちゃんが帰ったら、またひとりになるから……。楽しい時間、ずっとじゃないから」
小さな肩を震わせるいたいけな姿に、ぎゅっと胸が痛くなる。
いつも笑わないのは、楽しい時間の終わりを意識していたせいだったのか……。