エリート外科医といいなり婚前同居
「千波ちゃん……」
この子のために、俺のできることはなんだろう。まだ未熟な俺が精いっぱい考えて出した答えは、ただただ全力で遊んであげること。それだけだった。
「次来たときはさ、千波ちゃんが一番好きな遊びをしよう? 俺男だけど、お姫様ごっことかだって付き合うし」
それまでも色々な遊びをしてきたけど、千波の方になんとなく俺が男であることや年上である部分に遠慮がある気がしていたので、そう言って励ましてみる。
千波は少し泣き止んでコクっと頷くと、部屋の隅に置いてあったおもちゃを俺の元へ持ってきた。
「なら……お医者さんごっこがいい」
千波が俺の前に掲げて見せたのは、赤い十字マークのついたおもちゃの救急箱。
お姫様ごっこよりはだいぶハードルの低そうな遊びにホッとしつつ、俺は自分の将来の夢について自然と話していた。
「うん、もちろんいいよ。俺ね、将来千波ちゃんのお父さんみたいな医者になろうと思ってるんだ」
「そうなんだ! あのね、千波も!」
その時初めて千波が、泣きはらした目を一生懸命瞬かせて屈託ない笑顔を浮かべてくれて。
きゅ、と心の柔らかい部分をつねられたような痛みを覚えるのとともに、この笑顔のためなら、何百回だって何千回だってお医者さんごっこをしてやる。俺はそう強く思ったんだ。
――それなのに。