エリート外科医といいなり婚前同居
「ほら千波、ご挨拶しなさい。ずっと遊んでもらってただろ?」
紺野先生は千波を連れて空港まで見送りに来てくれたが、当の千波は先生の足にしがみついたまま、顔を見せてくれようとしなかった。
「千波ちゃん」
俺はそっと声をかけ、彼女と目線を合わせるようにしゃがんだ。すると、千波はおそるおそるといった感じに、半分だけ顔をのぞかせる。
その目はすでに真っ赤で、睫毛にいくつもの涙の玉がくっついていた。
きみのこと、笑顔にしようと思っていたのに……結局は泣かせちゃったな。
「俺、向こうで一人前の医者になって、絶対に帰ってくるから。そしたらまたお医者さんごっこしよう?」
すると、千波はふるふる首を横に振り、背負っていた小さなリュックを下ろして中を漁りだす。
そして小さな手が取りだしたのは、お医者さんごっこには必要不可欠なはずの、大事な聴診器のおもちゃ。
「これ、俺に……?」
そう尋ねると、千波は唇をへの字にして頷き、震える声で呟く。
「帰ってきたら、およめさんにしてください」
「え?」
意外過ぎる言葉に、俺は一瞬なにを言われたのか分からなかった。