エリート外科医といいなり婚前同居

「お兄ちゃんがお医者さんになって帰ってくるなら、そのとき千波もきっと大人だよね。だから、もうお医者さんごっこはしない。そのかわり、お兄ちゃんのおよめさんになりたい。そしたら、ずっと一緒にいられるでしょ?」

肩を震わせながらそんな願いを伝えられ、幼稚園児の女の子に不覚にも胸がきゅんとしてしまった。

とはいえ、もちろん本気ではない。シスコン気味の兄の心境といったところだろうか。

しかし、たとえ兄の心境でも妹にこんな可愛いお願いをされて、断れるはずがない。

「わかった。大人になったら結婚する。約束だ」

俺は聴診器を受け取り、彼女の前に小指を差し出した。そこに、千波がちっちゃな小指を絡めるように重ねる。

俺たちは指切りを交わし、記念に写真を撮ってから、手を振って別れた。

紺野先生に抱かれたまま遠ざかっていく千波は、いつまでもわんわん泣いていた。





イギリスに着いて生活も落ち着いたころ、俺は近況報告でもと紺野先生にメールを送った。ついでに千波の様子も尋ねると、《きみと出会う前の千波に戻ってしまった》との返事。

心苦しく思うも、離れた場所でしてやれることなんてなく、そうですかと返すしかなった。



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