エリート外科医といいなり婚前同居
来月が提出期限である卒論はなんとか書き終えたものの、肝心の就職先が決まっていないのは、同じ学部の四年生では私だけだ。
そして、最後の望みであった病院から送られてきたのは、またしても不採用通知。
……紺野千波、二十四歳。人生、詰んでます。
「千波~。メシだぞ」
階下から、父の呼ぶ声がする。
正直あまり食欲は湧かないけれど、私は「わかった」と返事をすると、そそくさとメール画面を閉じ、自分の部屋を出た。
「どうだ、今日の博史スペシャルカレーは」
「うん、美味しいよ」
食卓を一緒に囲むのは、いつも私と父博史のふたりきりだ。
天パーのふわっとした頭に、口ひげを生やしている父は、見た目こそちょっともっさりしたオジサンだけれど、実は立派なお医者さん。
自宅からも近い小さな病院『紺野内科小児科』で院長を務めていて、近所の方々からとても信頼されている。
母もそこで看護師をしていたけれど、私が物心つく前に事故で命を落としてしまったので、私に母の記憶はない。
でも、父と同じで、地域の人々の健康のためにいつも笑顔で頑張っている、はつらつとした女性だったと聞いている。