エリート外科医といいなり婚前同居
「当たり前じゃん。まぁ、白石さんとの仲は邪魔したくないけど、たまにはお父さんの顔も見たいし。……って、また恥ずかしいこと言わせないでよね!」
私は早口で言って、照れくささから逃れるように、父よりひと足先にリビングダイニングの方へと戻った。
キッチンを見るとまだ夕食の支度はなにもできておらず、私はとりあえずお米を研ぐ準備を始める。
あとからキッチンにやってきた父も、一緒に料理に取り掛かるべく手を洗って、冷蔵庫を物色していた。
そんないつもの父の姿を見ていたら、なんだかちょっとセンチメンタルな気分が湧いてきて、私は思わずこう漏らした。
「こうして一緒に料理をするのも、今日で最後だね」
「寂しいこと言うなよ~。お父さん泣いちゃう……」
わざとらしく鼻をすすって泣きまねをする父に、私は思わずクスクス笑ってしまう。
お父さんってば、いつもこう。こっちが真面目な時でも、ふざけてばかりなのだ。
そんな父との楽しい時間がなくなるのは、やっぱり寂しいけど……父も新しい人生を踏み出そうとしているし、私も二十四だもの。そろそろ自立しなくちゃね。
そんなことを思いながら作った父娘最後の夕食は、いつも通りの慣れ親しんだ味でありながら、胸がきゅっと切なくなるような、思い出深い味わいだった。