エリート外科医といいなり婚前同居

「知らなかった。……とりあえず今、温めるだけで済むお粥を買ってくるよ」

そう言って私の横をすり抜けようとした彼の腕を、私はとっさに掴んでいた。

……行っちゃやだ。駄々っ子みたいな思いが、胸に湧きあがって。

「千波?」

「い、行かないで……ください」

「大丈夫。すぐに帰ってくるよ?」

優しい微笑みで諭されるけれど、私は首をフルフル横に振った。

「その前に、ちゃんと謝らせてください。礼央さんはずっと私を覚えていてくれたのに、私は昨日、写真を見つけるまでずっと忘れたままだったから……」

小さな頃だったとはいえ、あんなによくしてもらった相手をなんで忘れていたのだろう。

自分の記憶力の悪さにほとほと呆れて俯いていると、頭の上にぽんと大きな手が乗せられる。

「嫌なこととかショックなことって、無意識のうちに記憶に蓋をしてしまうだろ? 千波の中では、俺との別れがそれほど大きなショックだったってことじゃないかな。……でも、いいんだもう昔のことは。俺の方こそ、過去にこだわりすぎて千波を傷つけた。ごめんな」

「礼央さん……」

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