エリート外科医といいなり婚前同居

こうして実家があって、父も現役で稼いでいるわけだから、野垂れ死ぬってことはないだろうけど……できることなら早く自立したい。

昔から父の病院に通う、なじみの患者さんたちにも「千波ちゃんまだ実家にいるのね」とか言われてしまいそうだし……。

「んー……仕事ねえ。職種にこだわりがないなら、紹介してやらんでもないが」

口ひげを弄りながらぼんやり呟いた父に、私は思わず身を乗り出す。

「えっ。お父さん、本当?」

「……いや、お前が期待するような医療関係の仕事じゃないぞ? まぁ、世話をする相手は医者だが」

お医者さまの、お世話? なにその特殊すぎる職業。

キョトンと目を丸くする私に、父がゆっくり説明を始める。

「ずっと海外暮らしだった知り合いの医者が、日本に帰って来たんだが……どうも自分の世話ができない男でな。いい家政婦がいないか探してるらしい」

「家政婦……」

思ってもみない分野だった。でも、そのお医者様のために家事をしてあげればいいだけなら、特殊なスキルが必要というわけでもない。

家事は昔から父と分担してきたから得意だし……私にもできる仕事かも。


< 4 / 233 >

この作品をシェア

pagetop