エリート外科医といいなり婚前同居
「……本当は、六時半でよかったんだけど」
いつもよりずっと近い距離から、暁さんの低いハスキーボイスが聞こえてくる。
「えっ?」
「ちょっとの間こうしたかったから、わざと早い時間を伝えたんだ。……怒った?」
そんな質問の後、衣擦れの音がして、少し体を離した彼が私の顔を覗き込んだ。
「お、怒ったっていうか……」
それより、なんでこんなことするの?とか、私はなんでこんなにドキドキしているの?とか、わけのわからない疑問や感情に心を支配されて、いっぱいいっぱいなんですが……。
心境をうまく説明できずにただ頬を熱くしていると、後頭部に大きな手が添えられ、彼はまた私の顔をぴたりと胸に寄せた。
トクントクンと鳴る彼の心音が、耳元に優しく響く。
「怒ってないなら、しばらくこのままでいて。俺、寒いの苦手なんだ」
寒いのが苦手……。そんな単純な理由で、私を抱きしめてるの?
やっぱり暁さんって、よくわからない。
でもそれ以上に、この腕を無理やりほどいて彼の腕から出て行こうとしない自分自身も謎だ。こんなこと、絶対に家政婦の仕事じゃないのに……。