エリート外科医といいなり婚前同居
困っているのはわかるけど、家政婦のオプションにそんな仕事があるとは思わないじゃないですか……。
「頼むよ。そのぶん、給料は弾む」
熱心な眼差しで頼み込まれ、私の心は揺れ惑う。
演技にはまったく自信がないし、嘘をつく罪悪感もあるけど……。
すでにこうして同居生活を送っているわけだから、同じようなもの? お給料を弾んでくれるのも魅力的だし……でも。
「偽物だって、すぐばれませんかね……? 私、暁さんのことなにも知らないし、本物の婚約者同士のような、親密な雰囲気は出せないですもん」
いくつかの不安要素を彼に伝えると、暁さんはふっと微笑んで「それなら大丈夫」と言った。
そして、突然真剣な顔になったかと思うと、私の頬を両手で包み込んだ。
えっ。なに? なんで急にまた接近されて――。
「千波」
混乱する私の名を、彼が甘い掠れ声で呼ぶ。いつもと違い呼び捨てにされたと気づいて、頬が熱くなった。
ついさっきまでは〝さん〟付けだったのに、どうして……?
「は、はい……」
カラカラに乾いた喉でかろうじて返事をすると、彼の顔がじりじりと近づいてきて、息のかかる距離でぴたりと止まると、こう告げた。