エリート外科医といいなり婚前同居

「夕飯、今日は作る元気ないだろうから、外で食べようか」

作る元気がないというのは彼の言うとおりだった。……家政婦なのに情けない。

「はい。……すみません」

「気にしないで。立てる?」

スッと手を差し伸べられ、そのさりげない優しさに、胸がトクンと鳴った。

きっと、婚約者のフリという新たな役割を与えられ、いっそう甘くなった彼の言動に、頭も体も勘違いを起こしているんだ。

自分が礼央さんの特別な女性なんじゃいかって……そんな、あり得ない勘違いを。

そこまで考えて、ずきりと胸に痛みが走った。

なんで痛いのよ……。ちょっと前まで、私自身が彼に家政婦として扱われたがっていたはずでしょ?

彼になにかを期待したり、望んだりするのはおかしいよ。私は……ただの、家政婦なんだから。

自分にそう必死に言い聞かせ、心の内側から滲みだす甘い気持ちに気づかないふりをするのだった。


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