エリート外科医といいなり婚前同居
「礼央さんは、意地悪です」
――side礼央
家政婦として同居している千波に婚約者役を頼んだ数日後。俺は、たまたま仮眠室で一緒になった同僚に説教されていた。
「馬鹿かお前、どうしてそこで〝大事な家政婦〟なんだよ!」
「いや……いきなり気持ち押し付けても、困らせるだけかと思って」
話し相手の同僚は同じ医局に勤める外科医で、名前は橋本修平(はしもとしゅうへい)。
帰国してすぐに重要なオペを任されることになった俺を疎ましく思う医師も多い中、俺を認めてくれ本音で接してくれる数少ない医師のひとりだ。
年齢もひとつしか変わらないので気が合い、同僚でもあり、友人でもあると俺は思っている。
「相手の気持ちもわからないまま、いきなりキスされる方が何倍も困るだろ!」
「それは……不覚にも本能に負けたとしか……」
橋本の正論にぐうの音も出ず、俺はソファに座ったままうなだれる。
そのキスも、本当は一度で済ませるはずだったのに、千波の赤らんだ頬や切なく潤んだ瞳、やわらかく溶けていく唇の味に歯止めが利かなくなり、押し倒す寸前まで暴走してしまった。