雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
〇総合病院(昼)
陸と和奏に先導される形で、陽和が病院に駆け込むと、母はベッドで点滴を打ちながら眠っていた。
他の兄弟たちもすでに到着していて、みんな不安そうな顔をしている。その傍に白衣姿の医者と看護師が並んで立っていた。
陽和「母の容体は?」
医者「詳しい検査はこれからですが、だいぶ無理をしていたようですね。しばらく入院してもらうことになりそうです」
陽和「そうですか……よろしくお願いします」
医者が病室を去ったあと、唯和が陽和の服をつまむ。
目には涙がいっぱい溜まっている。
ゆいゆい「ひいーたん」
陽和「心配しなくても、大丈夫だよ。お医者さんが治してくれるからね」
ゆいゆい「ママ、死なない?」
陽和「人間はそう簡単に死なないよ」
唯和は父を知らない。
生まれる前に死んだ父のことを周りから聞かされたせいか、死ぬことに酷く怯えている。
看護師「すみませんが、どなたか入院の手続きを」
陽和「はい、私が行きます。匠、ゆいゆいをお願い」
匠「ゆいゆい、おいで」
病室を出る時、陽和はちらりと母の顔を見る。
(お母さん、痩せた?)
私がもっとしっかりしていたら――。
入院の手続きが終わり、兄弟たちも引き上げたあと。
陽和は病院の公衆電話に向かう。
そこで、持っていた榊の名刺を取り出し、ダイヤルをしようとしたとき。
ふと、視界の先を横切る男性に気が付き受話器を置いた。
陽和「まって!」
そこにいたのは、雨宮だった。
雨宮「君は確か……」
陽和「あの、私、お受けいたします」
雨宮「……なんの話だ?」
陽和「どうしてもお金が必要なんです。この際、わがまま言いませんから、社長の好きなようにしてください!」
雨宮の両腕を掴み、押し倒さんばかりの勢いで迫る陽和。
一方で、雨宮はポカンとしたまま固まっている。