雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません

〇総合病院の談話室(夜)

簡易テーブルと飲み物の自動販売機だけがあるシンプルな談話室にて、雨宮と陽和が向かい合って座っている。
面会時間が過ぎているせいか、周りに人はおらず談話室だけが明るい。

雨宮「それで? 母親の入院費が必要になったから僕の秘書をやると?」
陽和「はい……すみません、てっきり社長はこのことを知っていると思っていて」
雨宮「だからあんな紛らわしい言い方をしたのか」
陽和「切羽詰まっていたんです」
雨宮「一体、どうなっているんだ榊」

紙コップの珈琲を2つもった榊が遅れてテーブルにつく。
小銭を出そうと鞄の中を探る陽和を遮り、榊が話を続ける。
陽和の鞄からスマホが覗いている。

榊「さっき説明した通りですよ。花里さんが引き受けてくれる気になってよかったです」
雨宮「秘書は足りているが」
榊「仕事面においてはそうですね」
陽和「え、そうなんですか」
雨宮「そういうことだ、新しい秘書は必要ない」
榊「ですが、生活面では不足しています」
雨宮&陽和「はぁ?」

思わずハモッた雨宮と陽和は顔を見合わせて、お互いに咳ばらいをする。

榊「我が社長は仕事面においては有能ですが、生活面では無能でして放っておけば仙人のようになってしまいます」
雨宮「仙人とはなんだ」
榊「花里さんにお願いしたいのは、社長の食事・睡眠・健康面の管理です。本来こういうのは恋人なり妻がサポートするものですが、いかんせん社長は変わり者なので長く付き合える女性がいないのです」
雨宮「黙れ、老いぼれ」
陽和「つまり、お世話係をしろと?」
榊「ご名答でございます」
雨宮「断るなら今のうちだ」
榊「勤務時間や勤務内容については、おいおい決めていきますが、表向きは社長専属の秘書ということでいかがでしょう」
陽和「私にできますか?」
雨宮「”二度と私の前に現れないで”と、先日僕に言ったことを忘れたか?」

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