雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
冷酷な顔で陽和を睨む雨宮。
陽和は感情をぐっと堪えて、頭を下げた。
陽和「先日は失礼しました」
雨宮「公衆の面前で女に怒鳴られたのは初めてだ」
雨宮は椅子から立ち上がり、陽和に背を向けた。
追い掛けようとする陽和に、「気にしなくていい」と、榊が目配せする。
榊「さっきも言ったように生活面でのサポートなので、秘書と言っても特別な資格は要りません。むしろ、花里さんは人の世話に慣れているので適任かと」
陽和「あ、はい。弟たちの世話なら毎日しているので」
榊「それで結構ですよ。なんせ社長は子供のような人ですから」
雨宮「誰が子供だ」
どっかに行ったのかと思いきや、ちゃっかり話を聞いている雨宮。
ムスッとした顔をしている。
榊さんには「手を焼いている」と言っていたけど、どちらかと言うと社長の方が榊さんに逆らえない感じに見えるけどなぁ。
その時、スーツ姿の男性がやってきて雨宮や榊に会釈する。
見たところ、AMAMIYA FOODSの社員のようで――。
社員「病院長と話がつきました。来月からうちの病院食を試験的に始めようということです」
雨宮「分かった、ご苦労」
社員「わざわざ社長が顔を出さなくても」
雨宮「ここの病院長にはちょっとした義理があるんだ」
頷いた社員が、ちらりと陽和を見る。
榊「社長の専属秘書をすることになった花里さんです」
陽和「花里です、よろしくお願いいたします」
社員「立花です、よろしく」
榊「さて、我々はそろそろ帰りますが、花里さんはどうしますか?」
陽和「もう少し母の様子を見てから帰ります」
榊「外は暗いですから、帰りはタクシーを使ってください」
財布からお金を出そうとする榊。
「そんな、大丈夫ですよ!バスがあるはずですし」とバスの時間を調べるためスマホを鞄から取り出した陽和は、はっとした顔をしてそれを握しめた。
雨宮「花里」
陽和「は、はい」
雨宮「明日にでも新しいスマホを届けさせる」
陽和「え?」
雨宮「そのスマホが壊れたのは、こちらのせいだろ。それくらいの弁償はさせろ」
陽和「え、あっ」
雨宮「この前は、なんだ、その――悪かったな」