雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
〇花里家 玄関先(朝)
朝から賑やかな声が聞こえてくる花里家。
その声を聞きながら、扉一枚挟んだ玄関先で陽和が靴を履いている。
リクルートスーツと変わりない、黒いスカートスーツに、ひっつめ髪といった地味な姿だ。
陽和「じゃぁ、行ってくるね!」
匠「本当にその会社、大丈夫なんだよね?」
陽和「大丈夫だよ」
匠「心配だなぁ、私たちのために無理しないでよね」
陽和「分かってるってば、みんなのことお願いね」
(初出勤・歩きながら心の声)
AMAMIYA FOODSの社長秘書として働くことになったと、匠にだけ話している。
人一倍警戒心の強い匠は、この美味しすぎる条件に不安を抱えている様子。
陽和だって、全く不安がないわけではないけど榊は良い人だし、社長だってそんなに悪い人じゃない気がする。
約束どおり新しいスマホを届けてくれたし、何より、あの時のことを謝ってくれた。
あの冷たい目つきは怖いけど、大丈夫だよ、きっと。
〇雨宮が住むマンション(朝)
都心にあるタワーマンションは、空を見上げるかのように高い。
榊から指示を受けた通り、朝の7時に雨宮の家にきた陽和はコンシェルジュに挨拶をする。
陽和「おはようございます。私、AMAMIYA FOODSの花里と申します」
コンシェルジュ「おはようございます。花里様ですね。榊様より承っております。そちらのエレベーターから54階へどうぞ」
54階!最上階ですか!
エレベーターに乗り込んだ陽和は、外の景色が眺めながら雨宮のプロフィールを心の中で復唱する。