雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません

雨宮との電話を切ったあと、肩を落として歩く陽和の前に1台の車が停まる。
真っ赤なポルシェ。
山口百恵かよ、と悪態を吐く陽和だが、車から降りてきた人を見て目を丸くした。雨宮だった。

陽和「ど、どどどどどどうして社長がここに」
雨宮「ちょうど近くにいたんだ、それより弟は?」
陽和「先に帰りました」
雨宮「どうして1人で帰すかな」

呆れたように苦笑する雨宮は、助手席のドアを開け陽和に乗るよう促す。
初めは断ろうとした陽和だが、断るのも面倒くさくなり革のシートに身を沈めた。
座った途端、緊張の糸が切れたように溜息が零れる。

雨宮「弟君が殴った理由は?」
陽和「分かりません。たぶん、無理に聞いても話してくれないと思います」
雨宮「どうしてだ」
陽和「もうずっと反抗期なんですよ、あの子。それでなくても口数の少ない方だし……私のことは頼りない姉だと思っているんじゃないかな」

思わず涙ぐむ陽和。
その隣で雨宮は舌打ちをする。「――ッチ」

雨宮「頼りがいがあるかどうかは別として、やるべきことは1つだろ」
陽和「やるべきこと……」
雨宮「事実確認することだ」

雨宮はそういって、スマホを取り出しどこかに電話を掛けた。
『あぁ、僕だ。ちょっと調べて欲しいことがある』
その数分後、折り返しの電話が入り小声で何かを話している。

雨宮「殴った経緯が分かったぞ」
陽和「えぇ!? もう?」

驚く陽和を横目に、車を発進させる雨宮。
ハンドルを握りながら、今しがた仕入れた情報を彼女に話す。

雨宮「怪我を負わせた相手は、野球部の同級生だそうだ。目撃者の話によると、相手が弟君にちょっかいを出して口論に発展。その後、弟君が相手の顔面に1発お見舞いしたらしい。場所が繁華街だったこともあって、通行人が警察に通報したそうだ」

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