雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
「まぁ、あれくらいの歳の子ならよくある話だな」と雨宮が独り言のように言う。
喧嘩した場所が場所だっただけに、警察のお世話になってしまっただけだ。
しかし、陽和は納得いかない様子で窓ガラスの外に視線を移した。
陽和「(いくら喧嘩を吹っかけられたからって殴るなんて……)」
雨宮「ひよこのためらしいぞ」
陽和「え、私……?」
雨宮「就職難民だったひよこの事を馬鹿にされたらしい。でも、今はちゃんと就職できたんだと返したが、今度はコネで入ったとか、体でも使ったんじゃないかと侮辱された」
陽和「そんな」
雨宮「弟君が怒って当然だな」
陽和「それで、喧嘩の理由を私に言わなかったんですね」
雨宮「傷つけると思ったんだろうな。まぁ相手も自分が言い過ぎたことを認めているし、慰謝料も要らないと言っている。もし、法的に何かあるなら弁護士はこちらで用意するが――今は、弟の話を十分に聞いてやれ」
そう言って雨宮が指をさした先、広場のベンチに座る颯の姿があった。
陽和「颯……!えっ、でもどうして颯のことを」
雨宮「ひよこのことは家族構成も含めて全て、榊が調査済みだ。身元が確かじゃない女を秘書にするほど、うちの会社は寛容じゃない」
陽和「じゃぁ、私は」
雨宮「もちろん、調べた上で必要だと感じたから採用にした。だから、ひよこは堂々と僕の専属秘書をすればいい」
ポンッと、雨宮の大きな手が陽和の頭に乗る。
雨宮「まぁ、入社初日から仕事中に抜け出すとは思ってなかったけどな」
陽和「それは、もう!本当にすみませんでした!」
雨宮「僕はいいが、ヨネさんには後で謝っておくように。買い物の荷物を1人で会社まで運んでくれたんだからな」
陽和「あっ、今すぐ電話します」
雨宮「いいから、先に早く行ってあげなさい」
そう言って雨宮は颯を指さし、優しく微笑む。
陽和は雨宮に頭を下げて、颯のところに向かった。