雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません

陽和「颯」
颯「……お姉ちゃん」
陽和「ありがとう」

びっくりしたように目を見開く颯。
そのあと、すぐに照れくさそうに「何がだよ」と呟いた。

陽和「喧嘩した子の家、どこか知ってるよね?」
颯「知ってるけど」
陽和「じゃぁ、今から謝りに行こう。何があっても暴力はダメだからね、そこは颯が悪い。でも、颯は理由もなく人を殴ったりしないってお姉ちゃん知ってるから……よくやった!」
颯「なんだよ、それ」

颯の顔に笑顔が戻る。
陽和と颯が歩きだすのを、遠くから雨宮が見守っていた。

(陽和の心の声)
よかった、こんな風に颯と話せのは、社長のおかげだ。
雨宮社長は冷たい人だと思ったけど(時々、本当に冷たい瞳をするけど)実は温かい人なんだね。

颯「そういや、さっき友達から連絡があって。俺が喧嘩をした経緯について証言して欲しいって頼まれたんだって」
陽和「あっ、それはきっとうちの社長だよ。社長が誰かに(おそらく榊)お願いして、颯は悪くないっていう証言を集めてくれたみたいなんだ」
颯「へぇーさすが社長さんだな。金持ち」
陽和「ん?」
颯「証言1つにつき5万だって。みんな喜んでたよ」
陽和「5万!?」

それって、買収行為じゃないのかな。
法に触れてなきゃいいけど、金持ちのすることは理解できない~。
(今回は助かったけど)



〇雨宮のマンション(朝)

翌日、雨宮のマンションに向かった陽和はエレベーターが到着するのを待つ間、エレベーターのドアに移る自分の姿をチェックしている。
ベージュのジャケットに、シフォンのブラウス、ネイビーのプリーツスカート。
髪も米山のアドバイスを受け、両サイドをねじり後ろ止めた王道の秘書スタイル。
メイクはまだ、下手だけどリップだけは明るめの色を塗っている。

陽和「(よし、戦闘開始――)」

気合を入れたところでエレベーターが1階に到着した。

< 26 / 79 >

この作品をシェア

pagetop