雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません

なんなの、馬鹿なの、無能なの?
生活能力ゼロのくせに、どうして洗濯なんかしようとしたの?

社長の体を見るのに恥ずかしさがあって、怒りながら掃除をする陽和。
その様子に雨宮は申し訳なさそうにしながらも笑い、優しい顔で見つめている。
(陽和があまりにも怒るから、近くにあったパーカーを羽織る)
ふと、リビングのテーブルへ視線を向けると、大きなバッグがあるのに気が付いた。

雨宮「これは、ひよこが持ってきたのか?」
陽和「そうです、朝ごはんです」
雨宮「見てもいいか?」
陽和「すぐ用意しますけど、どうぞ」

バッグを開けると、ビニールに入った食パンがまず目についた。
続いて、タッパの中にはサラダ、保温ケースには下処理をしたジャガイモなど。
ポットからはスープの良い匂いがしている。

雨宮「自宅で用意してきたのか」
陽和「ここは調理器具が少ないので」
雨宮「このパン、旨いな」
陽和「あ、もう食べちゃいました?ハムとチーズのサンドイッチにしようと思って持って来たのに」
雨宮「柔らかいし香ばしい。どこの店のパンだ」
陽和「……花里パンです」
雨宮「はなざと?」
陽和「うちの父が昔作ってたレシピをみて焼いてきたんです」

形はまだ不格好なんですけど、と、はにかんだ笑顔を浮かべる陽和。
食パンの他にもドライフルーツが入ったパンや、ツイストパンもある。

陽和「昨日のお礼です。社長のおかげで颯と話し合えました」
雨宮「そうか、よかったな」
陽和「社長、あの……」
雨宮「なんだ」
陽和「どうして食パンの真ん中だけ食べるんですか?」

雨宮は食パンの耳を残し、真ん中だけを食べている。

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