雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません

雨宮「パンの耳は固いし好きじゃない」
陽和「うちのパンは耳も美味しんですよ。騙されたと思って食べてください」
雨宮「嫌だ」
陽和「1口だけ!」

雨宮の口元に、ちぎったパンの耳を持っていく陽和。

雨宮「やめろ、無理に食わせるな」
陽和「おいしいのにー」

シュンとした様子の陽和を見て、雨宮はパンの耳を取り口に入れた。

雨宮「……ほんとだ、柔らかい」
陽和「でしょう!くるみパンも美味しいですよ、ハイ!」

陽和の無邪気な笑顔がまぶしい。
雨宮がパンを食べている間にスクランブルエッグを作り、サラダ、スープと順番に出していく。それはまるでピクニックに行くかのような量で――。
雨宮は思わず苦笑した。

雨宮「毎朝、こんな豪華なご飯を用意してくれるのか?」
陽和「社長の健康管理は、専属秘書の務めですから」
雨宮「その専属秘書に胃袋を掴まれたかもしれない」
陽和「えっ?(顔が一瞬で赤くなる)」
雨宮「しかし、こんなに旨いパンの耳を作れるとは。さすが、製菓学校に行っていただけはあるな」
陽和「中退しましたけどね」
雨宮「必要なキッチン道具をリストアップしておいてくれ。それから、女の子がこんな重いものを持って来るもんじゃないよ。荷物が多い日はタクシーを使いなさい」

どこまでが冗談で、どこからが本気なのか。
なぜか胸のドキドキが治まらない陽和は、照れ隠しもあって早速、必要なキッチン道具をリストアップするため戸棚を開ける。
まずは、下の戸棚を開けて、次に上を開けようとした瞬間――。

雨宮「まて!ひよこ!」

大声をあげた雨宮は、陽和に駆け寄り頭を庇うように抱きしめる。
その直後、上の戸棚から空のペットボトルが大量に降ってきて、雨宮と雨宮に抱きしめられた陽和に直撃した。

陽和「こ、これは一体」
雨宮「悪い。ペットボトルの置き場所に困ってそこに入れていたんだ…」
陽和「空のペットボトルの置き場所はゴミ箱です!!」

ゴミの分別もできないのか……。
本当にもう、呆れて言葉がでない。
いや、それ以上に。
雨宮に抱きしめられたままの陽和は、顔が沸騰してしまうのではないかというほどの熱さを感じた。

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