雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
そう言うなり米山は、鞄から紙とペンを取り出す。
匠が慌てて手を振る。
匠「いえ、そんな、僕は一般人なので」
米山「あら、スカウトがいっぱい来ているって聞いたことあるわよ。芸能人になるのも時間の問題――」
米山がそこまで言いかけた瞬間、匠は彼女の腕を掴んだ。
それから、自分の唇に人差し指を当てる。
その時、ちょうど陽和がエントランスにやってくるところだった。
匠「姉には言わないでください」
米山「え、」
匠「お願いします、姉は知らないんです」
匠の迫力に押され、米山が黙ったところで陽和がみんなの目の前に来た。
陽和「お疲れさまです!」
大西「お疲れさま。お母さんの具合はどう?」
陽和「お陰さまで良くなってきました。ところで、どうしてみなさんとうちの匠が」
匠「あ、えっとそれは」
雨宮「挨拶していただけだ。行くぞ」
雨宮が米山と大西に声をかける。
それに従って2人は後に着いた。
◯カフェレストラン「Sunny」(夜)
陽和がバイトしていたお店。
急に就職することになったため、他のバイトが見つからず時間のある限り手伝っている。
といっても、常連しか来ない店なので陽和はエプロンしたまま、カウンター席に座っている。
陽和「なーんか怪しかったんだよねぇ」
マスター「匠くんが?」
陽和「うん」
陽和はあの時、遠目から匠と米山が話しているのを見ていた。
挨拶していただけのようには見えなかったけど―――。