雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
〇雨宮のマンション(夜)
雨宮「悪いな、こんな時間に。ちゃんとタクシーで来たか?」
陽和「はい」
雨宮の電話で呼び出された陽和は、彼の命令通りタクシーを使ってマンションに向かった。
いつもなら、まだ電車があるとかお金が勿体ないとか口答えをする陽和だが、そんな気力もなく。従順な彼女に雨宮は眉根をひそめる。
雨宮「どうした? 元気ないようだが」
陽和「そんなことないです」
雨宮「もしかして……今朝のことか?」
陽和「今朝? あぁ、あれはもういいです」
もういい、ということは、よくない時もあったのか?
陽和の様子を窺う素振りを見せる雨宮。
一方で陽和は、荒れた部屋の中をざっと見渡して小さく溜息を吐いた。
ソファの上で散らばっている服や、バスタオル。
シンク台に置きっぱなしになっている、2つのグラス。
嫌でも雨宮以外の誰か――――アンジュの気配を感じてしまう。
雨宮「〇☓コーポレーションのコラボ企画を進めたくてな。今日中に打ち合わせしたところをまとめたいんだ。試食をもらってきたから、テイスティングしてくれないか」
陽和「テイスティング?」
雨宮「食べてみて、旨いか不味いか言ってくれるだけでいい。夕飯はまだだよな?」
陽和「あ……」
雨宮「食べたのか? じゃぁもう食えないか」
陽和「いえ、大丈夫です。できます」
雨宮「無理しなくていいぞ」
陽和「無理、じゃないです」
無理じゃないけど、この部屋にいるのは無理かもしれない。
雨宮社長の仕草、表情すべてが、急に遠くなったように感じる。
ただの秘書でしかない私がこんなことを思うなんておこがましいことだけど。
――――すっごい嫌。
アンジュさんがこの部屋にいたなんて、考えるだけで嫌だ。
雨宮「悪いな、こんな時間に。ちゃんとタクシーで来たか?」
陽和「はい」
雨宮の電話で呼び出された陽和は、彼の命令通りタクシーを使ってマンションに向かった。
いつもなら、まだ電車があるとかお金が勿体ないとか口答えをする陽和だが、そんな気力もなく。従順な彼女に雨宮は眉根をひそめる。
雨宮「どうした? 元気ないようだが」
陽和「そんなことないです」
雨宮「もしかして……今朝のことか?」
陽和「今朝? あぁ、あれはもういいです」
もういい、ということは、よくない時もあったのか?
陽和の様子を窺う素振りを見せる雨宮。
一方で陽和は、荒れた部屋の中をざっと見渡して小さく溜息を吐いた。
ソファの上で散らばっている服や、バスタオル。
シンク台に置きっぱなしになっている、2つのグラス。
嫌でも雨宮以外の誰か――――アンジュの気配を感じてしまう。
雨宮「〇☓コーポレーションのコラボ企画を進めたくてな。今日中に打ち合わせしたところをまとめたいんだ。試食をもらってきたから、テイスティングしてくれないか」
陽和「テイスティング?」
雨宮「食べてみて、旨いか不味いか言ってくれるだけでいい。夕飯はまだだよな?」
陽和「あ……」
雨宮「食べたのか? じゃぁもう食えないか」
陽和「いえ、大丈夫です。できます」
雨宮「無理しなくていいぞ」
陽和「無理、じゃないです」
無理じゃないけど、この部屋にいるのは無理かもしれない。
雨宮社長の仕草、表情すべてが、急に遠くなったように感じる。
ただの秘書でしかない私がこんなことを思うなんておこがましいことだけど。
――――すっごい嫌。
アンジュさんがこの部屋にいたなんて、考えるだけで嫌だ。