雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
雨宮「ひよこ? 本当に平気か?」
陽和「大丈夫ですってば。私の胃袋はブラックホールですから」
雨宮「ふっ、なんだそれは」

それでも雨宮社長の役に立てるなら、こうして冗談だって言えるし。
今朝のことは気にしないふりもできる。
ソファやシンク台に何もないよう振る舞える。
和奏もきっとそうなんだろうな。
好きな人のためなら、何だってしてあげたいと思うのは当然のことだから――。
いや、でもなぁ。
さすがに「彼氏ができたことのない~」ってのは、きつかった。
正直ちょっと傷ついたよ。

雨宮「これはどうだ?」
陽和「微妙です、さっきの方がインパクトあって良かったような」

コラボ企画の試食をしながら、雨宮と仕事を進める陽和。
真剣な表情で仕事をする雨宮社長に、思わず見惚れる。
だけど、その思いを払うべく陽和は首を左右に振る。
恋なんてしてる場合じゃない――。
それは、今も昔も同じ。


~~回想~~

陽和が高校生の頃。
同じクラスの男の子(以下・高杉)と急激に仲良くなり、放課後一緒に帰ることが増えた。
スポーツ万能で爽やかな彼。
くだらない話をして笑い合えるだけで幸せだと思っていた。

陽和「今日も楽しかったー!また明日ね」
高杉「もう帰るの?」
陽和「ごめん、弟たちの面倒見なきゃ。店の手伝いもあるし」

この頃、陽和の実家は父親が”花里パン”を経営していて、忙しい両親に代わり小さい弟たちの面倒を見る毎日だった。当然、デートする時間はなく、デートしたとしても兄弟付きだった。

高杉「なんか、思ってたのと違うな」
陽和「え?」
高杉「口を開けば弟、妹って、それしかないのかよ。マジつまんねぇ」
陽和「……ごめん」
高杉「謝んなくていいよ、一生そうやって兄弟の面倒見とけば?」

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