雨宮社長の専属秘書は気苦労が絶えません
何を言い出すんだと、陽和は訝る。
公園の中には誰もおらず、榊の薄くなった頭を照らしている。
榊「今の社長が就任して半年になるのですが、実は手を焼いていましてね。花里さんもお気づきの通り、どうも性格が悪い」
陽和「はぁ……」
榊「私としても何とか社長のサポートしたいと思っていますが、いかんせん変わり者でして」
陽和「社員にそこまで言われるなんて、よっぽどなんですね」
榊「しかしながら社長はとても有能で、我が社には必要不可欠なお人なのです」
陽和「アメリカに留学していたとか?」
榊「ご存知でしたか!」
陽和「いや、ちょっと聞いただけで」
榊「先日、社長に面と向かって怒鳴りつけたあなたを見て、ピンときました。あなたなら社長を扱える。いや、花里さんにしか社長を扱えない」
陽和「いやいや、激しく誤解してます」
榊「花里さん! どうか老い先短い私の願いを聞いてください!社長をよろしくお願いします」
陽和「無理ですって……」
大げさというか、思い込みが激しいというか。
無関係な人だから文句言えただけで、社長だと知ってたら怒鳴ったりしてないし。
すみません、と頭を下げる陽和。
それを見た榊は、表情を無くしてすっと立ち上がった。
榊「花里陽和、23歳。下町にあるパン屋の長女と生まれるも、父親が19歳の時に事故で他界」
陽和「え、あの」
榊「当時は父親の跡を継ぐべく製菓学校に通っていたが、月謝が払えなくなり退学。アルバイトをしながら兄弟たちの面倒を見ていたため職歴なし、学歴なし、資格なしで正社員雇用は難しい。ツテやコネを駆使して就職活動をしているが、今のところ全滅」
陽和「調べたんですか?」
榊「履歴書を頂いたので」
そう言って、榊はにっこり笑う。
このおじさん、侮れないな……。
榊「うちに来てくれるなら、正社員契約はもちろん、月給は28万+能力給を出します。どうでしょう?」
陽和「に、にじゅうはち万プラス……」