暗鬱な君に花束を
比較的ゆるゆるな私の唯一と言っていいようなこだわり。どの会社の製品でもいいけど、柔軟剤はゼッタイ、バラの香り。
「へぇ、なんか意外だね」
「…意外?」
「あぁ…悪い意味じゃないんだよ?ただ美羽は、あんまりゴージャス!って感じの花を好むイメージがなかったから」
礼奈ちゃんがやや早口でそう言う。
たしかに私も、ゴージャスなのはそんなに好きじゃない。…でも。
「お父さんとお母さんの思い出の花なんだって」
「…!」
私がそう言うと、なぜか眺がビクッと反応した。
「…眺?」
もしかして眺のお父さんとお母さんにも、そんな思い出があったりするのだろうか。
でも、それにしては様子が…
「…っああ、なんでもないよ」
「そうなの?」
なら大丈夫なのだろうか。本人が大丈夫だと言ってるのだから、大丈夫なのかもしれない。
「…えっとね…お父さんがお母さんにプロポーズしたときに、バラの花束を渡したんだって。バラの花束には意味があってね、108本で“結婚してください”って意味らしいんだけど、」
「なにそれ、ロマンティックだね…!」