狼少年にキスをした
第一話
「名前なんですか?」
「……え?」
突然、本当に突然。名前を聞かれた。
今恐らく私に声をかけたこの男性。
芸能人より断然顔が整っている、いわゆるイケメンの更に最上部にいそうな部類の人が私の横に立っている。
そんな人が誰かの名前を聞いている。
まさか自分ではないだろうと思い、辺りを見回してみたが他には誰もいない。
聞いているのは私、のようだ。
だが、正直こんな格好いい人に声を掛けられるほどの容姿は残念ながら持ち合わせていない。
それに声を掛けるにしてもまさかこんな雨のなか、しかもバス停でびしょ濡れの女子高生に話し掛ける人なんてそうそういないと思うのだが。
もしかして……結構な変わり者?
もしくは悪徳勧誘とかなのだろうか……?
そんな考えを巡らせていると、目の前の男があっと突然呟いた。
私はそれにビクッと反応して、慌てて顔を上げると彼の笑みによって細められた目と視線が絡まった。