狼少年にキスをした












「もしかして、あれ?名前を名乗らない奴には教えないとか?」

「え?」





先ほどと同じような返事をしてしまう。それほどのまた予期しないような言葉だった。

というかその前に気づくべき点が大分違う気がするのは私だけなのだろうか……?

そんな私の気持ちも置いてきぼりに、彼はとんとん拍子に話を進めていく。




「俺の名前は須田要(すだよう)。で?」

「えっと……あの、その……」

「うん?」



そんな相槌と共に出された綺麗な笑顔を見た途端、自分の抵抗が薄くなっていくのを感じた。"だめだ、教えてはだめだ"と囁く私の声と"教えちゃいなよ、大丈夫だよ"と囁く私の声が頭の中で繰り返し流される。


どうしよう、どうしよう、どうしよう


不安になっていく気持ちを抑えるためにぎゅっと両手を握ると「大丈夫?」という優しげな声が聞こえた。



「は…い、大丈夫です……」

「本当?なんか……ごめん。
そうだよな、いきなり見知らぬ人に名前なんか聞かれたら、怖くもなるよな」



そう呟いて悲しげな顔を軽く俯かせる彼を見ると、私の心に罪悪感がじわじわと広がり始めた。






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