ヴィーナスパニック
プロローグ
何もなかった。
特別悪い事も起きなければ、特別良い事もなく。
静かな凪のような、穏やかな三年間をひっそりと過ごすはずだった。
そう望んでいた。
それが私だったはず。
けれど、いとも簡単に願いは打ち砕かれる。
荒波へと、私は放り出されることになる。
溺れて必死に足掻き、それでも抵抗虚しく薄れゆく意識の中で、呪文のように後悔を繰り返す。
あの時
あの場所で
あのノートを、落としさえしなければ――と。