ヴィーナスパニック
ノートを落としただけなのに
春。
私は、高校三年生になった。
眩い陽射しが降り注ぐなか、桜の花びらがひらひらと宙を舞う。
歩き慣れた通学路だけれど、柔らかい桃色が散る風景と青空が新学期の幕開けを告げ、とても心地良かった。
校門を入ると、昇降口前には人だかりができている。
そこには新クラスが記された紙を貼り付けた掲示板が、設置されていた。
「やったー!すみれ、同じクラスだよ!一年よく耐えた、あたし……!」
そう言って目元に腕をやって泣き真似をするのは、親友のさなちんこと倉本 沙奈(くらもと さな)。
私よりも早く登校していた彼女は、真っ先に私を見つけて駆けつけてきてくれた。
「ほんと!?嬉しい!!私もこの一年どれだけ寂しかったか……」
さなちんとは一年生の時に同じクラスで仲良くなり、二年生では別々のクラスになってしまった。
だけど高校生活最後の年に、また一緒になれて私達は二人で手を取り合って喜んだ。
さなちんは、可愛い。
というか、綺麗系っていうのかな。
胸下までのロングの髪の毛は地毛なんだろうけど真っ黒じゃなくてほんのり焦げ茶で、すくってもすぐに指からするりと流れていってしまうくらいにサラサラで常に天使の輪ができて艶々なのだ。
幾度となくお手入れはどうしてるのかと聞いてみても、何もしてないとの返答。
生まれつきの髪質みたいで、羨ましすぎる。
目だってぱっちりしてるし肌もきめ細かくてニキビなんて一つもないし、唇もいつも潤っていて乾燥してるとこなんて見たことない。
何にせよ、美人なのである。