仁瀬くんは壊れてる
 ――傍にいて

「……失うほうが。怖いと思った」

 ドキドキするのも。
 初めてを経験するのも。

 愛されたいのも。
 わたしが愛したいのも――
「巧くんは、わたしにとってイレギュラーでしかなかった。わたしの中に棲みついて消えなかった」
「花が、変われたのは。変わろうと思えたきっかけは。紛れもなく仁瀬だったんだな」
「沙羅と玲二くんのおかげでもあるんだよ」
「俺らは花の喜ぶことばっか考えてた。だけど。仁瀬は、飴と鞭の使い分けが上手いらしい」

 そうなのかな。
 本当の巧くんは、みんなが思うほど器用ではない。

 狡さだけでなく弱さも見せてくれたからこそ。
 信じられたんだと思う。

「沙羅と玲二くんは、巧くんがわたしを溺愛してるとか言ってたけどさ。最初は、本気でイジワルしてきたと思うなあ」
「どーだろうな」
「だって。『生きててたのしい?』……だよ」
「もしかして図書室に残って作業してたとき?」
「そうそう」
「あー……そりゃあ。落ちるわ」

 呆れ笑いする、玲二くん。

「落ちる?」
「俺もあのときの花。すげえ可愛いと思ったから」
「えっ……」
「普段、感情豊かな方じゃないと思ってたろ。なのに。あのとき、花がイライラしてるところ見て。もっと色んな顔みてみてーって。たしかに思ったわ俺も」

 そんなこと、考えてたの……!?

「しかし。小学生男児レベルだよな、あの学園王子も」
「小学生?」
「好きな子に意地悪したくなるってやつ。定番だろ。わかりやすく嫌がること言ってる相手のこと大好きってパターン」

 ……大好き。

「初恋なのかもな、花が。仁瀬は」 
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