仁瀬くんは壊れてる
「えーっと。潔癖症ってやつ?」

 そこまで深刻なのじゃないけど。

「ハンカチの貸し借りや飲み物の回しのみはしちゃいけませんって小さい頃に先生から言われたせいかな」
「そんなこと言われなかったよー、うち」
「知ってる? 産まれたときって、口の中は無菌状態なんだけど。親や周りの人間との関わりで虫歯菌が増やされていく。だから本来、赤ちゃんに熱いものをあげるとき、ふーふーなんてやっちゃいけないし。食器の共有も、よくない。キスなんてしたら。どれだけ細菌うつされるか――」
「ロマンチックの欠片もない!!」

 沙羅が呆れ顔を見せる。

「ほらね。わたしなんか恋人にしたって楽しくないでしょ」
「んーん。こうなったら、ツンデレな花のデレるところがみたい」

 わたしいつからツンデレキャラになったの?
 
「その好奇心、どこからくるの」
「なんだろう。やっぱり花みたいな子に会ったことないから気になるというか」
「そう」
「恋はいいよー? 毎日がハッピーだから」
「する予定ない」
「理屈抜きでしたくなるもんだよ。気づいたら始まってるの」

 沙羅は、どうしてもわたしを恋する乙女にしたいらしい。

「そっか。じゃあ、沙羅はしたいんだ」
「……へ?」
「好きな人と。キス」
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