仁瀬くんは壊れてる
 ――――仁瀬くんは、コワレテル。

「さあ、おいで」

 手を掴み、タクシーに乗せられて。

「いっぱい、かわいがってあげる」

 耳元で囁かれたとき。

 怖かった。

 仁瀬くんが。

 そんな仁瀬くんにドキドキしている、自分が。

 どれだけ歪んでいても、わたしが仁瀬くんに生きる希望をあげられたのだと思うと、ドキドキして仕方がなかった。

 ぜんぶ、嘘かもしれない。
 騙されているのかもしれない。

 そう思っても。

 鼓動は、おさまってくれなくて。

「誰にでもそんなこと言ってるの?」

 疑って。

「花にしか言わない」

 揺らいで。

「わたしが嫌いだから酷いことするんじゃないの?」
「嫌いだったら。最初から、関わるわけないだろ」

 どうせそんな言葉に気持ちなんてないのに。

「誰とでもキス。するクセに」
「してない」

 期待したくないのに。

「……っ、嘘」
「嘘じゃない」

 期待させられて。

「してた。女の、先輩……と。目の前で。わたしのこと。知らないって……とぼけた」
「たしかに。唇も肌も重ねた」
「……!!」
「けど、そこに特別な感情は1%もないからカウントする必要ない」

 わたしは特別だよって。
 言われている気がして。

「眠るのに枕を用いるだろう? あれば利用するだけさ。朝食で摂ったタンパク質の方がずっと、僕を構成するために必要不可欠なものだ」

 女の子を道具みたい扱う、ヒドイひとは――

「相手の気持ちはどうなるの?」
「そんなもの。僕の知ったことか」
「……っ」
「そうか。花、そんなこと気にしてたんだ」

 心がぐちゃぐちゃになったわたしの隣で、穏やかに微笑んでいたんだ。
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