仁瀬くんは壊れてる
 仁瀬くんのうちに着いて。
 部屋で、キスされたとき。

 それを嬉しいと感じる自分に気づいて。

 涙が、頬を伝って。

 仁瀬くんが、その雫を、舐めた。

「美味しい。花。もっと呑ませて」

 酷いこと、言うひとなのに。

「かわいい」

 おかしなこと、するひとなのに。

 ドキドキさせられて。

 仁瀬くんの舌が。唇が。

 わたしに触れるたびに、好きって、言われてる気がして。

「かわいいよ。花」

 かわいいって言われるのが。

 たまらなく嬉しくて。

「咲き乱れて?」

 自分が、自分の知らない女の子になっていった。

「他のやつの前で泣かないで」
「どうして」
「こんな可愛い花。誰にも見せたくない」
「…………壊れてる」
「君も壊れたらいい」
「わたし……も?」
「花と僕の歯車が合いさえすれば。他の誰とも合わなくても。狂っていても。なんにも問題ないだろう?」
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